自律神経失調症やパニック障害がある人のリラクセーションに、自律訓練を実施する具体的な方法
今日は、これまで何度か紹介してきた自律訓練法について より具体的な内容をお話していきたいと思います。
自律訓練法は、ドイツの精神医学者であるシュルツが開発した方法です。
元は、催眠療法から端を発していますが、この方法の目的は、「緊張を取り除く」ことだといいます。
催眠を基にしている、というのは、催眠状態になった身体の状態に近づくように、自己暗示をかけていくことからも理解できます。
この方法が発見された時というのは、なんと催眠をかけた状態での効果などを研究している時でした。
「自己暗示でも催眠状態と同じ状態になることができる」「催眠状態になると、心身が健康になる」ということが発見されたことから始まります。
そして、自律訓練を行うことでどのような効果が謳われているかというと
- 疲労の回復
- 自己コントロール力がつき、衝動的行動が減る
- 心身の苦痛が軽減する
- 穏やかになる
- 集中力や能率があがる
- 過敏性がやわらぐ
などがあげられ、自律神経失調症やパニック障害の方の心身の問題にも良い効果が期待できます。
なぜ「緊張を取り除く」のが良いのか
「緊張」は、私たちにとって必要な身体変化ではあります。
というのは、情動の発現は、本能的なものであり、必要な能力で、何か身の危険が迫った場合に、怒りや恐れ、緊張を表します。
それは、自身の生命を守るために発動させるのです。
例えば動物であれば、近くに命を狙うような動物が近づいてきた場合に、それを察知し、急いで逃げなくてはなりません。
そのためには、恐れや緊張を発動させ、身体的に瞬時に逃げられる、もしくは戦闘態勢に入れるようにする必要があります。
これは動物のたとえですが、人間においてはそのような場面は多くありません。
しかし、自身の「存在理由」を脅かすような出来事が起こったときには、上記のような情動的発現がおこります。
なぜなら、人間が社会的な動物だからです。
たとえば、離婚の危機、仕事を解雇される、友人や仲間から無視される、上司から責められる・・・等々。
このような場面に遭うと、人は自身の存在理由が脅かされたと感じ、交感神経が優位に働きます。
怒りや恐れ、不安を感じるようになるのです。
一般的に情動は一過性のものであるため、発現させれば元の状態に戻ります。
怒りや不安は、少し時間が経過すれば、収束していくのです。
しかし、問題なのは、そのような情動を発現させないように、「我慢」している場合です。
この時には、情動は発現されず、消化されずにその人のなかに蓄積されていきます。
このような情動的興奮が消化されず、いつまでも身体内部では緊張状態が続くことになるのです。
自律訓練はこのような緊張を弛緩させる働きがあるのです。
さて、自律訓練を行うにあたっては、具体的に身体的な病気や過敏性がある場合には行わないようが良い場合もあります。
ただし、いくつかの公式を修正すればよいので問題はありません。
事前の準備
リラックスできる環境を整える
うるさい騒音がある部屋、人の出入りのある部屋 などは落ち着きません。
環境的に、実施している間は落ち着いて集中して行えるような場の設定が重要です。
服装においても、リラックスできる服装で行うのが望ましいとされています。
また、空腹や満腹だと集中することができません。
適度な状態にしておくこと、用を足しておくことなどで、自分の内部環境が一定時間集中できるように準備しておくことが大切です。
練習する際の姿勢
実施するためには、いくつかの姿勢を試しておく必要があります。
仰臥位(布団などに上向きに横になっていること)や椅子に腰かけること、ソファなどに腰かけることなどがあります。
いずれにしても、ゆったりとくつろげる姿勢でいられるようにします。
その時に注意するべきなのは、どこかに負担になっている箇所があれば、それを早めに修正することです。
目を閉じて、3回ほど深呼吸をします。
楽でいられる呼吸に整えます。
そして以下の公式を順序良く唱えていきます。
まずは背景公式と第1公式、その1週間後などに、重感が得られるようになってこれば、第2公式へと進みます。
背景公式(安静練習) 「気持ちが落ち着いている」
第1公式(四肢重感練習) 「両腕・両脚が重たい」
第2公式(四肢音感練習) 「両腕・両脚が温かい」
第3公式(心臓調整練習) 「心臓が静かに規則正しく(自然に)打っている」
第4公式(呼吸調整練習) 「楽に(自然に)呼吸(息)をしている」
第5公式(腹部温感練習) 「腹(胃のあたり)が温かい」
第6公式(額部涼感練習) 「額が心地よく(快く)涼しい」
引用:松岡洋一・松岡素子 1999 自律訓練法 日本評論社
事前準備の後、背景公式(気持ちが落ち着いている)と第1公式を唱えます。
最初のやり始めの1か月程度は、意識的に身体の緊張をほぐすようにしていますが、そのうちすぐに自己教示によって緊張がほぐれるようになっていきます。
「気持ちが落ち着いている・・気持ちが落ち着いている・・右腕が重たい・・右腕が重たい。気持ちが落ち着いている・・気持ちが落ち着いている・・右腕が重たい・・」と頭の中で暗唱をしていきます。
その際には、注意を体に集中していってください(受動的注意集中といいます)。
そして、身体の感覚が重感や温感として感じられるようになってくると、徐々に公式をあげていってください。
さきほど出てきた「受動的注意集中」について以下で解説します。
受動的注意集中とは
自律訓練法を行う際に、心理的構えとして、受動的注意集中の状態を作る必要があります。
自律訓練を行うときにはリラックスした心理状態を作る必要があります。
しかし、「気持ちが落ち着いている」と言って気持ちを落ち着けようとするときに、意識しすぎたり、無理にそうなろうとしたりすることでリラックスできない状態になる場合があります。
そのため、できれば積極的に身体に集中しすぎずに、身体の感じを感じ取ろうとする姿勢を言います。
例えば、小さい声を聞き取ろうとするとき、意識を耳元へ持っていき、音の感覚に集中し、耳を研ぎ澄ましますよね。
そのような姿勢で、身体の感覚を感じ取ろうとしてみてください。
注意点など
どの公式までやるかというのは、自分自身の身体状態に合わせることになります。
たとえば、重度な心臓疾患がある方は、第3公式は実施するのはリスクがあります。
その公式は外してください。
胃潰瘍がある場合、第5公式は外す、といった具合です。
主治医がいる場合は主治医に確認をしておきましょう。
そしてその都度、公式をし終えたら消去動作を行います。
消去動作とは、目をゆっくりと開き、手をグーパーグーパー、腕を曲げたり、伸ばしたり、最後にグーッと背伸びをします。
これは、就寝前以外は毎回行ってください。
自律訓練後は、副交感神経が優位となり、休息する状態に身体ができあがっていますので、そのまま活動に移ってしまうのは良くありません。
消去動作をすることで、活動しやすい状態になります。
頻度としては、一日2-4回程度を毎日実施します。
4回目は就寝直前のベッドの中で行うのが一番良いでしょう。
一回につき、5分から15分程度を目安にすると良いでしょう。
タイミングとしては、朝寝起きの時、お昼や夕食の後、就寝前が良いでしょう。
食後は少し時間をおきます。
第1公式の「重たい感じ」を得るのは、重感練習と呼びます。
重感練習では、利き腕の右側から始めます。
腕、指先というのはもっとも感覚が鋭敏な場所です。
そのため、「重たい」感じを感じやすい場所といえます。
それによってコツをつかんで後、左腕(両腕)、両足へと汎化していきます。
「重たい」と感じることの生理的変化については、腕や指先の筋肉が弛緩している様子のことです。
両腕、肩は、事務作業などを行っている方はPC操作等によって筋肉の緊張がひどいことが多いです。
過剰な筋緊張による身体症状を緩和させるためにもぜひ、じっくりと実践しましょう。
自律訓練法は、毎日実施ごとに日誌をつけると良いといいます。
日誌をつけることの利点は、小さな身体の変化も見逃さないようになることです。
それによって体との対話を続けることにもつながります。
この訓練法を続けることによって、自律神経の乱れによる症状、不眠や動悸、気分の落ち込み、不安感、対人緊張、肩こり、首こり、胃腸の症状・・etc、様々な症状が和らいでいく事が期待できます。
そのようなことを通して、自然と気持ちが楽で居られるようになり、ストレスが発散され、蓄積されにくい体になっていきます。
辛い症状が緩和することで、気分も前向きになっていくことでしょう。
以上が具体的な自律訓練法の流れとなります。
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