苦しいパニック障害を悪化させずに取り除く暴露療法とは
パニック障害を治療するメジャーな方法はいくつかありますが、その代表が「暴露療法」といわれるものです。
暴露療法は、認知行動療法のなかの一つなのですが、認知行動療法とは辛い、苦しい気持ちをもたらす考え方のクセを洗い出し、それを変えていく心理療法の事をいいます。
たとえば、乗り物に乗った際にパニック発作が起きたとしましょう。
患者さんはそれがまた起きるのではないかと考えて、発作が起きた状況、つまり電車のなかやエレベーターに乗る事を避けてしまう場合があります。
これは予期不安といって、「これからまた発作が起きるかもしれない」と不安になる事を指します。
この予期不安に伴う回避行動は、パニック障害を治療することを妨げてしまいますから、その回避行動を改善したりすることができます。
それでは、暴露療法について詳しくみていきましょう。
(パニック障害による症状の原因と対策については→こちら)
暴露療法とはどんな方法か?
暴露療法を語る前に、認知行動療法について簡単に振り返りましょう。
認知行動療法とは、自分を苦しめてしまう、辛い気持ちにさせてしまうような自分自身の考え方を楽な方向に転換するものです。
辛くなってしまう考え方のクセは、私たちが生活していく上で適応的ではありません。
ですので、そのネガティブな考え方をその状況に合わせてより中立的/建設的/前向きで歪みのない状態へ変換させていきます。
例えば、
仕事でミスをしてしまった時にひどく落ち込んだとします。
落ち込むということは、ミスをしてしまった状況に対して自分自身にある種のレッテルを貼付けるわけです。
「僕はまたミスをしてしまった。なんでダメな人間なんだ」
など、自分をダメな人間だと評価してしまう。
そうすると人は誰でも落ち込みます。
でも、ミスをした時にこう考えるといかがでしょう?
「ミスをしない人間はいないのだから、次は気をつけよう」
こう思うことができれば、落ち込みも過度にはなりません。
落ち込みが状況に不相応なほどにある場合には、先ほどの「ダメな人間だ」とまで飛躍してしまっている可能性があります。
この飛躍し、自分を辛くする考え方を楽にするわけです。
これは、ものの見方、視点の持ち方をトレーニングすることで変わっていく事ができます。
これが、認知行動療法の「認知」の部分に焦点をあてた治療技法でした。
一方、認知行動療法の「行動」というのには、どんなものがあるのか?
それが「暴露療法」になります。
人は考え方や行動が一定にパターン化されています。
似たような考え方をし、同じような行動パターンをとっていくわけです。
ですから、「パニック発作が起きそうで恐い。なので、電車は避けよう」といった具合にどんどん電車に乗らないという行動が増えていきます。
確かに電車に乗らないうちは発作は起きないかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。
解決は電車に乗れるようになる、ということなのです。
しかし、回避ばかりしていると、「電車に乗ったら発作が起きるに違いない」という固まった信念が強化されてしまい、実際に「乗っても発作が起きない」かもしれないけれど、それを経験する機会を逸してしまうわけです。
暴露療法は、実際に不安になる場面(電車に乗る)を体験させ、「発作は起きない」という経験をさせたり、発作に慣れるという体験を通して、「電車に乗っても大丈夫」「電車に乗って発作が起きてもやり過ごせる」といった新たな考え方を身につける方法といえます。
この認知行動療法による方法は、うつ病や不安障害などの精神疾患の治療に使用されるほか、心の病気の予防にもなるため、メンタルヘルスケアの方法として病院や学校、職場などで取り入れられることも多くなっています。
暴露療法は学習理論に基づいている
暴露療法は、エクスポージャー法とも呼ばれています。
この方法は学習理論に基づいています。
人は、何度も同じ状況を体験することでその状況に慣れが生じます。
その「慣れ」は、例えば新しい学校に入った時のことを思い出すとわかりやすいでしょう。
新しいクラスに入った時、私たちは誰もが緊張し、不安を感じています。
しかし、毎朝何度もそのクラスに入り講義を受ける事で、自分が思っていたこと、感じていた不安は薄れていきます。
それは、不安や緊張という感情のみならず、身体にも影響していきます。
緊張や不安を感じている時、生理学的な反応が生まれています。
緊張すると汗をかいたり、筋肉が緊張しますね。
慣れてくると、その生理的な反応も薄れてくるのです。
パニック障害で置き換えてみると、パニック発作が起きそうなので、その状況(電車に乗るなど)を避けてしまっている場合、実際にはその発作が起きないことを体験したり、体験しても軽度ですむことを体験したり、または発作をうまくやり過ごしたという体験等を通して、自分が抱えている不安感や恐怖心を克服しようということです。
学習理論で何が生じているのかというと、不安感などの感情はずっと持続するものではなく、時間経過とともに軽減されます。
さらに、その不安感や恐怖心は何度も繰り返すうちに弱まっていきます。
電車に乗る、バスに乗る、エレベーターに乗るといった苦手な場面でも、慣れれば慣れるほど不安感が弱まっていきます。
その作用を利用して、治療を進めるのがエクスポージャー(暴露療法)になります。
それでは、その具体的なステップについてご紹介します。
暴露療法の具体的なステップとは
まず初めに、あなたの不安に感じる場面/行動を書き出していきましょう。
例えば、電車に乗る時にパニック発作が起きてそれを恐れているという場合。
- 家の玄関から出て行く時に不安になる
- 駅のホームで電車を待つ
- 電車に乗る
上記のような不安に感じる場面があるとします。
しかし、どの場面も同じ不安感の程度かというとそうではなく、電車に乗る時がとても不安になる、とか、玄関から出るときは少しだけ不安がよぎる、というように程度が異なってきます。
それを数値化していき、以下のように「不安階層表」を作成します。
- 家の玄関から出て行く時に不安になる 30
- 駅のホームで電車を待つ 50
- 電車に乗る 100
この数値は、最大に不安な場面が100、不安がない場面が0として数値化します。
そして、その数値化したものを程度の強い順に並べていきます。
不安度が低いもの〜中くらいの場面を選び、その場面を実際に体験します。
ポイントとしては、中くらいの場面から始めると、もしうまくできなくても低い場面を選択してチャレンジできますので、50くらいの場面を目安に行動に移していきましょう。
そして、不安な場面を体験し、不安感が薄れる/発作が起きない/発作をうまくやり過ごす、などの体験を通して、「慣れ」を学習させます。
その時間は大体一回につき20から30分以上行います。
それを繰り返す事でその不安な状況を克服する事ができるわけです。
この時、不安感や恐怖を感じる場合、事前にトレーニングした呼吸法や自律訓練などのリラクセーション技法を実施し、うまくやり過ごしていきます。
また、最初すぐに実践するのではなく、イメージを使って不安感を和らげることもできます。
この場合には、リアルにその場面がイメージできるような工夫をすることが大切です。
実際のその状況を映像で見るほか、その場面がどうだったかを具体的に視覚的に報告してもらい、それを読み上げたり、録音するなどして、その場面をリアルに思い出すように工夫します。
リアルにイメージできればできるほど、不安や恐怖を起こしやすくなり、「慣れ」のトレーニングになるからです。
暴露療法は、このような手順でパニック障害などの病気を克服するお手伝いをします。
注意事項として、非常に苦痛を伴う方法とも言えますから、一時的に症状が悪化する場合もあります。
今の症状の重症度によっては実施をしないほうが良いと判断される場合もあるので、ご自身で実践される場合には主治医や心の専門家に確認をしながら行うのが望ましいでしょう。
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